涼やかに時雨、故に雪解け

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「…………どもっす」

「あっ!いらっしゃいませ!」

 


店員はすぐに来店の気配を察し、笑顔で客を迎える。

この店には、とても綺麗な造花がある。

いつ見ても変わらない、一際綺麗な一輪が。

 


「ご注文はお決まりですか?」

「アイスカフェラテ…シロップ無しで。」

「かしこまりした!すぐにお持ちしますね!」

 


花の美しさ、とはなんなのだろうか。

 


「お待たせしました、アイスカフェラテになります!」

「……ありがとうございます。」

 


多くの人は、きっと薔薇の華は美しいと答えるだろう。

桜の花は散り際が儚く、それもまた美しいと言うだろう。

それらを思い浮かべる時、多くは生花を思い浮かべるだろう。

 


「いつもご来店ありがとうございます!こちら、来店キャンペーンのサービスです!」

「ありがとう、ございます。」

 


だが、造花を造花と知りながら、美しいと口にする人は、あまりいない。

 


造られた美

あるがままの美

そこには、違いがあると思っていた。

 


しかし、自分が美しいと感じることができれば、そこには美しいという結果だけが残る。

 


「お会計ですね!…450円になります!ちょうどいただきますね、こちらレシートになります!」

 


この店にはとても綺麗な造花がある。

 


「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしていますね!」

「……ごちそうさまでした」

 


私は、そうであると知りながら、その造花を世界で一番美しいと思っている。