〜Witch and ...〜
ーーーー娑羅
狐が鳴りひびく
ーーーーーどこまでいっても盆の外
ーーーーー盆ならばしゃりと返しましょう
ーーーーー溢れたお水は還りません
ザァッと。あと少しのところで、広がる水に追いつかれる。逃げ口を 見 失 っ た 異分子[しんにゅうしゃ]は、再び構えを取る。
「鬼ごっこはもうせんの?
追いかけ逃げて、ウチは好きやで。ちっちゃい子みたいでなぁ。」
一切の抵抗を感じさせない滑らかな動きで闇から現れた美女は、古い玩具を弄りながら少し肩を竦める。
「ま、ウチは追いかけるより逃げるほうが好きなんやけどね。」
異分子は静かに瞠目する。ここまで散々な手口で追いかけておいて逃げる方が好きとは。
どこに目があるかはっきりしない顔が、少女を睨む。逃げ道を塞がれたとしても最終的に自分が帰れなかったとしても、情報さえ持って帰ることができればこちらの勝ちだ。なんせ少女はこちらを1人で追ってきた。1人でも逃げ切ることができれば1番の目的は達成できたと言うもの。
ーー少女をここで足止めすれば勝利となる。
前触れなく仕込みのナイフを投げる。
逃げる途中で意図的に操れるよう設置してきたナイフは一瞬で少女を囲いつつ殺到した。
しかし、ナイフは少女の姿を通り去る。
「アハハっ…怖ぁ。でもなぁ、甘々やわぁ。御座候かて、もうちょい後味スッキリしとるよ?」
幻術か。通り過ぎたナイフには気にも留めず次なる一手をーーー
「零れた水は還らんよって、言うたやろ?」
バシャり。
途端、異分子意識は溶けて広がる感覚に満たされる。
最中、急激に混じり合ったのは共に逃げていた同僚の意識。それぞれがこの数分で起こった記憶を意味なく垂れ流し共有する。
「…嫌やわ。せっかくお兄ちゃんがおるのに、時間かけすぎたわ。早よお風呂入ってとくれんゼリー食べよ。」
溶ける意識の中、冥土の土産に少女の意識から残されたオレンジの味を最後に、鬼ごっこは終わりを告げ、異分子達の意識を終わらせた。
ーこれは今を生きる魔法使いの、夢と希望の物語。ー